ナマコと糖尿病の研究データ|動物実験で分かったこと・まだ分からないこと
「ナマコは糖尿病によい」という話を見聞きすることがあります。実際に、ナマコ由来の多糖類や加水分解物を使い、血糖やインスリン抵抗性との関係を調べた研究はあります。
ただし、現時点で確認できる中心的なデータはマウスやラットを使った動物実験です。普通の食事としてナマコを食べた人の糖尿病が改善すると証明したものではありません。
ナマコは医薬品ではなく、この記事は診断・治療・予防を目的としたものではありません。糖尿病で治療中の方は、食品やサプリメントを自己判断で治療の代わりにせず、医師・管理栄養士へご相談ください。
この記事の目次
最初に結論:期待される研究はあるが、ヒトでの効果は未確立
- ナマコ由来成分を与えた複数の動物実験で、空腹時血糖やインスリン抵抗性などの改善が報告されています。
- 実験で使われたのは、加水分解物、多糖類、グリコサミノグリカンなどの抽出・濃縮成分が中心です。
- 一方で、短時間の試験では食後血糖が対照群より高くなったマウス研究もあります。
- 今回確認した範囲では、ナマコを食べることで糖尿病の治療効果を確かめた十分なヒト臨床試験は見つかりませんでした。
つまり、「研究対象として可能性が検討されている」とは言えますが、「ナマコが糖尿病に効く」「食べれば血糖が下がる」とは断定できません。
ナマコの何が研究されているのか
研究対象はナマコそのものだけでなく、ナマコから取り出した次のような成分です。
- 加水分解物:酵素などでたんぱく質を細かく分解したもの
- 多糖類:糖が多数つながった成分
- グリコサミノグリカン:アミノ糖などからなる多糖類の一種
- サポニン:植物や一部の海洋生物にも含まれる成分群
これらが、インスリンの情報を細胞内へ伝える経路、肝臓での糖代謝、腸内細菌の構成などにどう関わるかが調べられています。
ただし、抽出成分を体重1kgあたり数十〜数百mg投与する実験と、料理としてナマコを食べることは同じではありません。成分量、吸収、調理法、摂取期間が大きく異なります。
ナマコと糖代謝に関する主な研究データ
| 研究対象 | 試験内容 | 主な報告 | 読み取る際の限界 |
|---|---|---|---|
| マナマコ Apostichopus japonicus |
糖尿病モデルマウスへ酵素加水分解物を10週間投与 | 高用量群で空腹時血糖、尿糖などが未処置群より低かった | 動物実験。食品そのものではなく加水分解物 |
| マナマコ A. japonicus |
高脂肪食マウスへグリコサミノグリカン20・50・100mg/kg/日を8週間投与 | 用量に応じた空腹時血糖上昇の抑制や、肝臓のインスリン情報伝達経路への作用を報告 | 動物実験。分離した特定成分を使用 |
| Holothuria leucospilota | 2型糖尿病モデルラットへ多糖類100・200mg/kgを4週間投与 | 高用量群で耐糖能や腸内細菌などに関連する変化を報告 | 別種のナマコを使った動物実験 |
| Pearsonothuria graeffei | マウスへサポニン150mg/kgを与え、でんぷん負荷後2時間まで測定 | 対照群より血糖が高くなった時間帯があった | 短時間の動物実験。長期試験とは条件が異なる |
「mg/kg」は体重1kgあたりの投与量です。研究結果は、ナマコ料理の推奨摂取量を示すものではありません。
マナマコのマウス研究で報告された具体的な数値
2018年に発表された研究では、糖尿病モデルのdb/dbマウスへ、マナマコの酵素加水分解物を10週間投与しました。
未処置の糖尿病モデル群と高用量群を比べると、空腹時血糖は次のように報告されています。
| 測定項目 | 未処置の糖尿病モデル群 | 高用量群 |
|---|---|---|
| 空腹時血糖 | 36.84 ± 7.82 mmol/L | 25.18 ± 6.84 mmol/L |
| 尿糖 | 45.44 ± 3.93 mmol/L | 22.66 ± 5.58 mmol/L |
いずれも研究内では統計学的な差が示されました。しかし、この数値は糖尿病モデルマウスに高用量の加工成分を与えた結果です。人が刺身や酢の物として食べた場合の効果を示す数値ではありません。
「統計学的な差」があれば、人にも効くのですか?
そうとは限りません。動物と人では代謝や投与量が異なります。また、研究用の抽出・濃縮成分と通常の食品では、体内に入る成分量も異なります。人での安全性と有効性は、適切に設計されたヒト臨床試験で別に確認する必要があります。
すべての研究結果が良好とは限らない
2016年のマウス研究では、ナマコ由来サポニンが試験管内でα-グルコシダーゼを阻害した一方、でんぷんを与えた後の血糖は、サポニン投与群のほうが対照群より高くなりました。投与2時間後の値は、研究論文内で4.8mmol/Lから10.5mmol/Lへ上昇したと報告されています。
研究者らは、短期的なストレスホルモンの変化が関係した可能性を検討しています。この結果だけでナマコが血糖を上げるとも断定できませんが、成分の作用は条件によって変わり、都合のよい研究だけでは判断できないことを示しています。
ヒトへの効果はどこまで分かっているか
今回確認した研究では、動物や細胞を対象にしたものが中心でした。ナマコそのもの、またはナマコ由来成分について、糖尿病患者を対象に十分な人数・期間で有効性を確かめた臨床データは不足しています。
そのため、研究結果から言える範囲は次のとおりです。
- 言えること:ナマコ由来の一部成分について、糖代謝との関係を示す動物データがある
- まだ言えないこと:ナマコを食べれば糖尿病が改善・予防できる
- 分からないこと:人で有効な量、摂取期間、長期安全性、薬との相互作用
糖尿病の食事は、特定の一品に頼るのではなく、適量で栄養バランスを整えることが基本です。厚生労働省の情報でも、糖尿病の食事は特別な食品ではなく、量とバランスを考えた健康的な食事であると説明されています。
食品としてのナマコの栄養
文部科学省「食品成分データベース」によると、生のナマコ100gあたりの主な成分は次のとおりです。
| 成分 | 100gあたり | 食品として見るポイント |
|---|---|---|
| エネルギー | 22kcal | 低エネルギーの魚介類 |
| たんぱく質 | 4.6g | 量は調理・加工状態で変わる |
| 脂質 | 0.3g | 低脂質 |
| 炭水化物 | 0.5g | 少量 |
| 食塩相当量 | 1.7g | 味付け品や塩蔵品は商品表示も確認 |
低エネルギー・低脂質・炭水化物が少ないことは食品としての特徴ですが、それ自体が糖尿病への治療効果を意味するものではありません。また、塩蔵品、味付け品、たれには食塩や糖質が加わる場合があります。
よくある質問
糖尿病の人はナマコを食べてもよいですか?
ナマコを一律に禁止する根拠はありませんが、食事療法は薬、腎機能、血圧、1日の栄養量などに合わせて個別に考える必要があります。味付けや塩分も含め、主治医や管理栄養士へ確認してください。
ナマコのサプリメントなら同じ結果が期待できますか?
期待できるとは言えません。研究ごとに成分、濃度、ナマコの種類、投与法が異なります。市販品が研究材料と同一とは限らず、人での有効量や薬との相互作用も確立していません。
血糖の薬を減らしてナマコを取り入れてもよいですか?
自己判断で薬を減らしたり中止したりしないでください。食品は処方薬の代わりにはなりません。変更を希望する場合は、必ず処方した医師へ相談してください。
この記事の研究から、食べる量は決められますか?
決められません。研究の多くは、動物へ抽出成分を体重あたりの量で投与したものです。人が食べるナマコの適量へ単純換算することはできません。
まとめ
ナマコ由来の加水分解物や多糖類については、糖尿病モデル動物で血糖やインスリン抵抗性に関係する変化が報告されています。その一方、異なる結果を示した研究もあり、通常の食品として人が食べた場合の効果はまだ確立していません。
ナマコは独特の食感を持つ低脂質の魚介類として楽しめますが、糖尿病への効果を期待して治療の代わりにするのではなく、食事全体の一品として考えることが大切です。
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参考文献・公的資料
- Dietary Apostichopus japonicus Alleviates Diabetes Symptoms and Modulates Genes Expression in Kidney Tissues of db/db Mice(Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2018)
- Glycosaminoglycan from Apostichopus japonicus Improves Glucose Metabolism in the Liver of Insulin Resistant Mice(Marine Drugs, 2020)
- A sea cucumber (Holothuria leucospilota) polysaccharide improves the gut microbiome to alleviate the symptoms of type 2 diabetes mellitus in Goto-Kakizaki rats(Food and Chemical Toxicology, 2019)
- Sulfated fucan/fucosylated chondroitin sulfate-dominated polysaccharide fraction from low-edible-value sea cucumber ameliorates type 2 diabetes in rats(Food & Function, 2020)
- Effect and potential mechanism of action of sea cucumber saponins on postprandial blood glucose in mice(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2016)
- 文部科学省 食品成分データベース「なまこ/まなまこ/生」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病の食事」
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
本記事は2026年10月10日時点で確認できた資料をもとに作成しています。研究の進展により評価が変わる場合があります。

